スキルマップの評価は何段階がよい? 評価基準の設定方法とあわせて解説

スキルマップを作成する際に、何段階評価にすべきか、評価基準をどう設定すべきか悩む方も多いはずです。

悩んだ結果、「ひとまず5段階にしておけばよいかな……」と考える方もいるかもしれません。ですがそのような考えは危険です。 スキルマップの運用に失敗してしまうリスクがあります。

失敗を避けるには、評価段階と評価基準の設定方法を理解することが重要です。そこで今回は、評価段階の数の考え方と、評価基準の設定方法について徹底解説します。

スキルマップの評価基準と段階数、スキル項目はセットで考える


そもそもの前提として、段階数に普遍的な正解はありません。評価したいスキルや、どこまで厳密に評価したいかによっても、適切な段階は異なります。たとえば「5段階評価よりも4段階評価に絶対すべき」といったことはないのです。

では、スキルマップの評価段階数はどのように決めればよいのでしょうか。結論からいうと、スキルマップの評価段階数は、単体では決められません。スキルマップの評価基準とスキル項目の内容、そして段階数をセットで考える必要があるのです。

スキル項目、評価段階、評価基準は次の表のように整理できます。

スキル項目 評価段階(段階数は3) 評価基準
ビジネスマナーの習得 一人でできている(下位者に教えることができるレベルを含む)
ほぼ一人でできている(一部、上位者・周囲の助けが必要なレベル)
できていない(常に上位者・周囲の助けが必要なレベル)
顧客サービス 一人でできている(下位者に教えることができるレベルを含む)
ほぼ一人でできている(一部、上位者・周囲の助けが必要なレベル)
できていない(常に上位者・周囲の助けが必要なレベル)

【参考】職業能力評価シート(営業 レベル1)/厚生労働省を元に一部改変、作表

この表において、たとえば「スキル項目」の列がなければ、評価者は評価を行うことはできません。そして「評価基準」の列がなかったとしたら、評価者は何を基準に「○、△、✕」を評価してよいかわかりません。そして「3段階評価を行う」ことが決まっていなければ、「ビジネスマナーの習得」や「顧客サービス」といったスキル項目について、評価者は見解を文章で記入しなければならないことになります。

このように、「どのようなスキル項目について」、「何段階で評価するか」、「そしてその評価基準は何か」は密接に関係しているのです。

※この記事ではスキルマップを作成する上での評価段階数と、その評価基準について詳しく解説します。スキル項目の定め方については、別の記事を参考にしてください。

2段階評価は資格の有無を問うようなスキル項目に向いている


何段階で評価するかを決めるためには、前提として、「ある評価段階数がどのような評価に向いているか」を理解する必要があります。まずは2段階評価から確認していきましょう。

2段階評価とは、つまり「はい」か「いいえ」、もしくは「ある」か「ない」かで答えられる評価です。たとえば特定の資格や経験の有無を確認するようなケースで使います。有無を問うだけですので、2段階評価を行う際は、評価基準に迷う必要がありません。

評価が明瞭ですが、「『ある』に該当する場合、どの程度か」を問えないため、2段階評価ができるスキル項目は限られます。

3段階以上の評価は「程度」を問う


3段階以上の評価段階は、2段階と大きく異なります。それは「有無」ではなく「程度」を問える点です。

たとえば3段階なら、「上 中 下」「高 中 低」、5段階なら「よい どちらかというとよい ふつう どちらかというとわるい わるい」といったように、「どの程度のレベルか」を評価できます。

このように3段階以上の評価段階数であれば「程度」が問えるようになりますが、評価者が適切に評価できるよう、評価基準をわかりやすく設定する必要があります。

たとえば先の例では、「上 中 下」で評価するような項目があった場合、何をもって「中」とするのかの基準がバラバラでは、評価者によって評価結果もばらつくため、意味のないデータになってしまいます。

このように、3段階以上の評価段階を設定する場合、評価基準を定め、誰が評価しても迷わず安定した評価ができるようにする必要があります。

以上を踏まえ、3段階以上の評価段階を設定する場合の注意点について解説します。

3段階評価はシンプルだが中央に値が寄りやすい

前述のように、3段階評価は「上 中 下」、「高 中 低」といったような評価を行う場合に使います。

3段階評価を取り入れるメリットとしては、そのシンプルさです。4段階以上の評価段階数と比べて多くの人が直感的に評価でき、評価者が迷いにくい点で優れています。

一方のデメリットは、特に工夫をしなければ、「中」と評価する人が多くなりやすい点です。「中」への偏りを防ぐ必要がある場合は、「上(高)」や「下(低)」の評価基準を明確に定めるなどの工夫が必須です。

5段階評価は感覚的に評価しやすい

5段階評価では、「よい どちらかというとよい ふつう どちらかというとわるい わるい」といったように、3段階評価よりも細かく評価できます。

5段階評価のメリットは、3段階評価と同様によく見る段階数であるため、感覚的に評価しやすいことです。一方のデメリットは、こちらも3段階評価と同様、評価が中央の値(「ふつう」など)に偏りやすい点にあります。

4段階評価は評価が中央に集まるのを防げる

4段階評価では、たとえば「よい どちらかというとよい どちらかというとわるい わるい」といったように、中央の評価値を排除できます。これにより、評価が中央に集まるのを防げるメリットがあります。

一方のデメリットは、中央の値がないと評価しづらい人もいるため、評価者の支持や理解が得られにくい場合があることです。

6段階以上に設定する方法もある

評価段階を6段階以上に設定する方法もあります。メリットは、段階数を細かく設定すればするほど、より「程度の違い」を詳しく分けられる点です。

一方、たとえば「5段階と6段階の違いは何か」などといったように、評価者が見て評価がわかりづらくなる、というデメリットがあります。

評価基準を定める上で参考になる評価指標・方法とは


ここまでは評価段階数とその基本的な特徴について解説してきました。ここからは評価段階数と密接な関係のある評価基準の設定方法や、参考になる評価方法について解説していきます。

ルーブリック評価

ルーブリック評価とは、主に学校などの現場で、生徒の学習に関する到達度、習熟度に関する評価方法です。

ルーブリック評価の例を見てみましょう。

【出典】グローバル教育 気になるキーワード VOL.5 ルーブリック | G-Edu

この例の評価では、評価段階を4段階とし、評価基準をそれぞれ細かく文章で定めています。このように、ルーブリック評価の大きな特徴は、「知識」や「意思」といった定性的な評価内容に関し、評価基準を厳密に定めることで、評価のブレを減らしている点にあります。

ルーブリック評価の考え方をスキルマップに転用すれば、定性的なスキル項目について、定量的な数値で評価できるようになります。そして定量的な評価ができれば、「3を4にしましょう」といったように、改善がしやすくなるのです。

厚生労働省の「職業能力評価シート」と「企業の取り組み事例」

厚生労働省は、スキルマップのテンプレート集ともいえる「職業能力評価シート」を公開しています。

しかしそれだけではありません。職業能力評価シートの活用事例集ともいえる「企業の取り組み事例」も紹介してくれています。この事例では、企業において職業能力評価シートを活かし、どのように評価基準を整備すればよいかを学ぶことができます。

たとえば株式会社富士通マーケティング(現:富士通Japan株式会社)は、事業本部における技能レベルの把握のために職業能力評価シートを活用しています。この際、元のシートでは「○・△・×」の3段階によるチェックだった項目を点数による評価とするなど、自社の運用に合わせてカスタマイズしました。

また、富士ネットシステムズ株式会社では、若年層の技術・技能チェックを目的とし、職業能力評価シートを導入しました。そしてその導入時に、ある項目の評価についておかしい点を発見したのです。

それは、「行動指針の理解」という項目に対し、理念を知っているはずの2年目社員が、自己評価として「○ △ ✕」のうち、「✕」をつけていた点でした。

この点について、その社員からは次のような答えが返ってきました。「理念は知っていますが、まだ自分は国家試験を通っていないので、業界の法令をちゃんと理解しているとは言えないえ思って×にした」。このことからは、評価段階だけではなく、その基準をしっかり定めないといけない、ということがわかります。

このように、各企業がスキル評価を行う上で、どのような苦労や成果があったのか、その事例が豊富に載っています。「職業能力評価シート」をテンプレートとしてスキルマップを作成しようとしている方には特に役に立ちますので、ぜひ参考にしてくださいね。

「キャリアマップ」、「職業能力評価シート」を活用した企業の取り組み事例について | 厚生労働省

評価を安定させるためのポイント4点


ここまで解説した通り、スキルマップの活用には、誰が評価しても同じ結果となるよう、評価基準の統一と浸透が非常に重要です。では、評価を安定させるためには、どうしたらよいのでしょうか。

評価を安定させるには、次の4点に注意するとよいでしょう。

  • 評価基準を作る上でテストをしっかり行う
  • 評価者研修を行う
  • 相談窓口を設ける
  • ブラッシュアップする

評価基準を作る上でテストをしっかり行う

スキル項目を用意し、評価段階を決め、評価基準を定めても、いきなり公開してはいけません。作成したスキルマップ案を実際に何人かに記入してもらいましょう。

そして、作成者の意図通り評価されるか、記入しづらい点がないか、わかりにくい点がないかなどの確認をおすすめします。

スキルマップの作成者は、自身が作成しただけあり、どのように評価すべきかを理解してしまっています。そのため、曖昧な評価基準説明などを見落としてしまいがちなのです。

それを防ぐためには、他者にスキルマップを記入してもらい、テストすることがおすすめです。テストの際の記入者は実際の評価者が望ましいでしょう。しかし調整が難しい場合は、親しい同僚などでもよいでしょう。

評価者研修を行う

評価が安定しない理由は、評価基準が不明瞭であること以外にもあります。それは、評価者に対し、評価方法や評価基準をしっかり伝えられていないことです。

評価方法や評価基準を評価者に理解してもらうためには、評価者研修が有効です。評価者研修では次のようなことを理解してもらうとよいでしょう。

  • なぜスキルマップによる評価を行うのか
  • スキルマップを何に使うのか
  • 評価項目や評価基準の意図
  • 想定される評価を悩みやすいケースと対策

評価の手引やマニュアルを用意する

また、評価者研修を行う上では、あわせて評価の手引やマニュアルを整備しておくことをおすすめします。一度の研修ですべての内容を覚えられる人はほぼいません。評価者には、手引きやマニュアルを参照しながら評価をしてもらいましょう。

相談窓口を設ける

研修を行い、マニュアルを整備したら、スキルマップ作成者の仕事は終わり……というわけにはいきません。

実際に評価者が評価を行う上で、評価者が困ったときに問い合わせできるように、相談窓口を設けることをおすすめします。実際に評価者が評価をしてみた結果、迷ったり悩んだりすることも大いにありうるからです。

ブラッシュアップする

スキルマップ案のテストや評価者研修の実施、相談窓口の運営を通じ、寄せられた質問や意見を放っておいてはいけません。質問や意見を元に、評価項目や評価基準をブラッシュアップすることが重要です。

ブラッシュアップを重ねることで、評価項目や評価基準は洗練され、より評価者が評価しやすいスキルマップを作成できます。またそれにより、有効活用しやすいデータが集まり、スキルマップを運営するメリットや効果が高まるのです。

スキルマップの活用には明確な評価基準の設定が大事


この記事では、スキルマップの段階数への考え方や、評価基準の設定方法について解説しました。

スキルマップの運用により価値のあるデータを集めるためには、明確な評価基準の設定が重要です。そのために、今回紹介した参考事例や「評価を安定させるためのポイント」なども参考にしていただければ幸いです。

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