時代の変化で正社員の事情も変わり、頻繁に「ジョブ型正社員」について、取り上げられるようになりました。とは言え、ジョブ型正社員の存在を知ってはいるものの、その意味を詳しく知らない人も多いと言えます。
そこで当記事では、ジョブ型正社員と従来の正社員との違いをはじめ、メリットや向いている企業などについても、詳しく解説します。
ジョブ型正社員が気になる企業の担当者や、自社での導入を迷う人は、ぜひ最後までお読み下さい。
目次
ジョブ型正社員は「ジョブのスペシャリスト」である
ジョブ型正社員について、簡潔に言うと「ジョブのスペシャリスト」だと言えます。
理由は、以下の通りです。
明確なジョブに従って仕事を行う
ジョブ型正社員の大きな特徴として、ジョブ・ディスクリプションという職務記述書に記載された「明確なジョブ」に従い、仕事を行うことが挙げられます。
ジョブ・ディスクリプションには、以下のような記載があります。
■ポジション名
■業務内容・範囲
■業務の目的・ミッション
■必要なスキル・資格
■勤務地(転勤/異動の有無も含む)
■勤務時間
上記に記載外の事項には、対応する必要が無いことから、自分の任務に対して着実に取り組むことができます。
業務の線引きがしっかりしている
前述の通り、ジョブ型正社員は「明確なジョブ」に従って、仕事を行います。
そのため、業務の線引きがしっかりしていると言えます。
つまり従業員は、任務に対して忠実に取り組める環境下にいるため、スキルが上がり、専門性が高まることが分かります。
決められたジョブを行うことで評価が決まる
ジョブ型正社員は、決められたジョブを行うことで、評価が決まります。
仮に、範囲外の業務を遂行した場合でも、与えられた業務をこなせていなければ、評価が低くなると言えます。
以上のことから、従業員は「ジョブ・ディスクリプション」の記載に対して、忠実に業務を遂行することを目指します。
つまり、ジョブのスペシャリストが誕生しやすいことが分かります。
従来の正社員は「典型的な日本型」である
ジョブ型正社員を語る際に、従来の正社員についても、比較すると分かりやすいでしょう。
従来の正社員は、以下の特徴を持つ「典型的な日本型」であり、メンバーシップ型と言われます。
■新卒一括採用
■年功序列制度
■終身雇用制度
特徴1:新卒一括採用
新卒社員を一括で大量に採用し、一定の教育・研修を実施したうえで、各部署に配属していきます。
つまり採用をした後に、本人の能力や適性を判断し、然るべきポジションに配置するということです。
特徴2:年功序列制度
年功序列制度は、年齢や社歴によって、給与やボーナスに反映されるシステムです。
日本では古くから、離職者を減らす目的で導入されています。
同じ能力を持つ場合には、若者や社歴が浅い人よりも、年齢や社歴を重ねた人の方が評価される傾向にあります。
頑張っている人からは、不満の声が上がりやすいことも特徴だと言えます。
特徴3:終身雇用制度
終身雇用制度とは、業績悪化による倒産などがない限り、1つの会社で定年まで雇用される制度を指します。
正社員として採用されると、定年まで在籍を約束されるため、手を抜く人も出やすい点がデメリットです。
新卒一括採用・年功序列制度とともに、日本の企業における「代表的な慣行」だと言えます。
ジョブ型とメンバーシップ型の正社員の違いとは?
ジョブ型とメンバーシップ型の正社員には、明確な違いがあります。
表にまとめると、以下の通りです。
割り当てる対象 | 仕事の範囲 | 配置転換 | 評価の方法 | 教育体制 | |
ジョブ型 | 仕事に人を 割り当てる | 明確 | 基本なし | 成果主義 | 自分で学ぶ |
メンバーシップ型 | 人に仕事を 割り当てる | 不明瞭 | ある | 職能給 | 用意されることが 多い |
割り当てる対象
ジョブ型とメンバーシップ型では、割り当てる対象が異なります。
【ジョブ型】
ジョブ型では、仕事に対して人を割り当てます。
つまり「ジョブ」ありきだと言えます。
採用時には、あらかじめ用意された「ジョブ・ディスクリプション」の内容に対して、条件に合致する人を採用します。
【メンバーシップ型】
メンバーシップ型では、人に対して仕事を割り当てます。
つまり「人」ありきだと言えます。
採用時には人柄を重視し、採用後に適性・能力を見たうえで、各ポジションに配置します。
仕事の範囲
ジョブ型とメンバーシップ型では、仕事の範囲が異なります。
【ジョブ型】
ジョブ型では、仕事の範囲は入社の時点で決まっており、明確に線引きがされています。
従業員は、決められた範囲内の仕事に注力を注ぎ、範囲外の仕事を行う必要はないと言えます。
範囲外の仕事を任す場合には、新たな「ジョブ・ディスクリプション」を用意し、契約を結び直すことになります。
【メンバーシップ型】
メンバーシップ型では、仕事はある程度の範囲で決まっているものの、明確な線引きはされていません。状況によって別のポジションの業務を行うこともあり、残業を命じられることもあります。
配置転換
ジョブ型とメンバーシップ型では、配置転換の有無に差があります。
【ジョブ型】
ジョブ型では、基本的に「部署異動」や「転勤」などの配置転換はありません。
とは言え、配置転換があるケースも存在しますが、その場合にはジョブ・ディスクリプションに記載された範囲内で対応します。
具体的に言うと、ジョブ・ディスクリプションに「転勤は〇〇県の支社に限る」などと記載があります。
【メンバーシップ型】
メンバーシップ型では、会社からの配置転換の要請に、基本的には対応することになります。
何度かの配置転換を経験しつつ、さまざまなスキルを身につけ、マルチに対応できる社員を育成すると言えます。
そのためメンバーシップ型では、入社当時と全く同じ部署・場所で働く人が、少ないことが特徴です。
評価の方法
ジョブ型とメンバーシップ型では、評価の方法が異なります。
【ジョブ型】
ジョブ型は、遂行した業務への忠実度とその過程を評価する「成果主義」を導入しています。
そのため、ジョブ・ディスクリプションに基づき、本人の評価が決まると言えます。
年齢・社歴が評価に影響しないことも、特徴的です。
【メンバーシップ型】
メンバーシップ型では、評価について「職能給」を導入しています。
職能給とは、本人のスキル・能力の他に、他者との協調性やマネジメント能力なども評価の対象になります。
つまり仕事が出来る人でも、上司から他部署のサポートを依頼された際に断る人や、マネジメントに一切興味を示さない人は、評価が低くなる傾向にあると言えます。
また、年齢・社歴が評価に反映されることも、特徴です。
教育体制
ジョブ型とメンバーシップ型では、教育の体制が異なります。
【ジョブ型】
ジョブ型では、最初から専門的な能力が求められることから、教育体制が用意されていないケースが大半を占めます。
そのため、従業員が自ら学ぶ姿勢が必要だと言えます。
【メンバーシップ型】
メンバーシップ型は、採用後に教育を施しながら、会社が必要とする人材に育てるという傾向が強いです。
そのため、さまざまな研修・教育環境が用意されているケースが多いと言えます。
ジョブ型・メンバーシップ型の強み(メリット)とは?
ジョブ型とメンバーシップ型には、それぞれのメリットとも言える「強み」が存在します。
以下に両者のメリットを紹介するため、比較してみましょう。
ジョブ型の強み
ジョブ型を導入する強みは、以下の3点です。
1、優秀な人材を採用しやすい
ジョブ型を導入すると、以下の理由から、優秀な人材を採用しやすくなります。
【理由①】募集ポジションにマッチする人材を採用できる |
ジョブ型雇用では、募集するポジションの「ジョブ・ディスクリプション」に対して、必要なスキルを記載します。 そのため、一定以上の能力を持つ人材の獲得が、実現できると言えます。 |
【理由②】 「即戦力」の採用が前提である |
ジョブ型雇用では、基本的に「即戦力」の採用が前提です 。 つまり、教育や研修を実施しなくても、すぐに働ける人材が対象となります。 |
以上のことから、ジョブ型では「一定以上のスキルを持つ即戦力」を、採用できることが分かります。
2、企業全体のパフォーマンスが高まる
前述の通り、ジョブ型を導入すると、優秀な人材を採用しやすくなります。
優秀な人材が集まることは、下記を意味します。
●少ない人数で、最大限のパフォーマンスを実現できる ●優秀な人材の相乗効果で、良いアイディアや方法が見つかる |
つまり、ジョブ型を導入することで、企業全体のパフォーマンスが高まると言えます。
3、多様な人材を生かすことができる
昨今では、以下の理由から、多様な人材を生かすことが重要だと言えます。
●さまざまな働き方が、普通の時代になった ●少子高齢化の影響により、一般的な労働人口だけでは間に合わない ●「終身雇用制度」を当然とする風潮が無くなりつつある |
つまり企業では、下記のような「多様な人材」を上手に活用することが、今後の発展のカギを握ると言っても過言ではありません。
■外国籍の人
■定年を迎えたシニア世代
■子育てなどの事情を抱え、フルタイムでの勤務は厳しい人
■複数の仕事を掛け持つ人
今までのメンバーシップ型では、正社員でフルタイム勤務が可能な人を前提とすることから、上記のような人材を採用することが、難しい状況でした。
一方でジョブ型を導入すると、各人材に対して、適したジョブ・ディスクリプションを作成することで、多様な人材の活用が実現します。
つまり、ジョブ型を導入することで、あらゆる状況の「優秀な人材」を採用することが、可能になります。
メンバーシップ型の強み
メンバーシップ型を導入する強みは、以下の3点です。
1、組織の変化に対して柔軟に対応できる
メンバーシップ型では、企業における「業績」や「方針」の変化に伴い、従業員を配置転換することが可能です。
つまり、組織の変化に対して柔軟に対応できる点が、強みだと言えます。
一方でジョブ型雇用では、ジョブ・ディスクリプションに沿った運用を実施することから、組織の変化に伴う配置転換は難しいです。
2、帰属意識を強められる
メンバーシップ型では、入社後に「教育・研修」を経て、さまざまな部署や支店に配属しながら、多くの経験やスキルを身に着けることができます。
こうした経験を通し、企業内のさまざまな人と接することから、コミュニケーションを取る機会が多くなります。
また、基本的に「チームで仕事をする」という姿勢が評価されるため、仲間と頑張る意識が芽生える傾向にあると言えます。
つまり、企業への「帰属意識」を強められることから、離職を防ぐ効果があります。
3、マルチに働ける社員が増える
前述の通り、メンバーシップ型では、さまざまな部署や支店に配属しながら、多くの経験・スキルを身に着ける流れが一般的です。
そのため、マルチに働ける社員が増えることが分かります。
つまり「欠員が出た時」や「増員が必要な時」に、企業内のメンバーを補充することが可能です。
ジョブ型正社員を導入すべき企業の特徴
続いて、ジョブ型正社員を導入すべき企業の特徴を紹介します。
ジョブ型正社員について、導入を迷う企業担当者は、参考にしてください。
採用のミスマッチを減らしたい
せっかく採用をしても、以下のようなミスマッチが生じ、悩む担当者もいるでしょう。
●従業員の能力が、企業が求める基準より低いと気が付く ●「こんなハズではなかった」と言われ、早期の退職者が続出する |
メンバーシップ型では、マルチに働ける社員を育成できる反面、仕事の線引きが曖昧なことから、上記のようなミスマッチが発生しがちです。
そのため、採用のミスマッチを減らしたい企業は、ジョブを限定した「ジョブ型正社員」の採用を、視野に入れると良いでしょう。
スペシャリストを要する職種・業界である
自社が、特定の分野での「スペシャリスト」を要する職種・業界である場合には、ジョブ型正社員の導入がおすすめです。
なぜなら、ジョブ型正社員は、特定の分野に長けたスペシャリストを採用するからです。
またメンバーシップ型を導入し、社員を一から育成するよりも、スキルを持ったジョブ型正社員を最初から採用する方が、効率的だとも言えます。
グローバル化に対応したい
海外への進出を狙う企業や、ライバル会社が外資系企業などの背景があり、グローバル化に対応したい企業は、ジョブ型正社員の導入を視野に入れると良いでしょう。
こうした企業は、外国籍の労働者を取り入れる機会もあり、海外の雇用事情に合わせることも必要です。
その際に、日本で浸透する「メンバーシップ型」では、対応しきれないケースも多いと言えます。
労働人口の減少に伴う「人手不足」に備えたい
日本では周知の通り、少子高齢化が進んでいることから、この先も労働人口の減少について、向き合っていく必要があります。
ジョブ型を導入すると、さまざまな労働者に対応できるため、正社員のフルタイムでは働けない人も、労働人口として確保することが可能です。
そのため、労働人口の減少による「人手不足」に備えたい企業は、ジョブ型正社員を検討すると良いでしょう。
まとめ
ジョブ型正社員と、従来の正社員との大きな違いは、職務内容の明確さだと言えます。ジョブ型正社員は明確であり、従来の正社員は不明瞭な傾向にありますが、それぞれ強みが存在することも分かりました。
とは言え、日本の雇用事情も変化したことから、ジョブ型正社員に頼る比重は、将来的に大きくなると予想できます。
この機会に、自社へのジョブ型の導入を、検討してはいかがでしょうか。