「ジョブ型雇用」は欧米から発祥した雇用方法ですが、導入を考える企業担当者は、欧米スタイルをそのまま取り入れるのではなく、日本に合わせた内容にすべきです。
当記事では、欧米スタイルを導入した際に危惧される内容や、日本スタイルの「ジョブ型雇用」として採択する方法および注意点を解説いたします。
ジョブ型雇用の導入を成功させたい担当者は、ぜひ最後まで目をお通しください。
ジョブ型雇用への注目が高まる理由
欧米で主流のジョブ型雇用ですが、昨今の日本においても、注目が高まっています。
その理由として、以下の4点が挙げられます。
①経済的成長を遂げた現代では「ジョブ型雇用」の方が合う
戦後の高度経済成長期においては、企業を発展させるべく多くの人材を雇用し、安定かつ長期的に労働者を確保する必要がありました。
この悩みに対応すべく、生み出された制度が、ジョブ型雇用とは対義の関係で語られることが多い「メンバーシップ型雇用」です。
その代表的な内容は、下記の通りです。
【新卒一括採用】
新入社員を一括で採用し、教育をしながら適所に配置するというもので、計画的なジョブローテーションや研修を繰り返しつつ、人材の長期的な育成を試みます。
【年功序列制】
長期的に働く従業員へのメリットを考え、勤続年数や年齢が高まるほどに、賃金や退職金額が増えるシステムであり、早期の離職を防ぐ効果もあります。
【終身雇用制度】
本人の退職意思がある場合は別ですが、会社の倒産などの出来事がない限りは、定年まで在籍できる制度であるため、長期的な人材の確保につながります。
以上が、人材を安定的かつ長期的に確保すべく生まれた「メンバーシップ型雇用」の代表的な特徴でした。
一方で現代においては、高度経済成長期の終焉から安定期を経て、グローバルな時代に突入したことも重なり、他社との差別化が求められるようになりました。
このことから従来の「メンバーシップ型雇用」ではなく、経済的成長を遂げた現代に適合し、より専門性を求めた働き方が可能な「新たな雇用内容」が必要となりました。
そこで、各自の能力を最大限に生かすことが期待できる「ジョブ型雇用」が、注目されているのです。
②同一労働同一賃金制度に対応しやすい
2020年4月から施工が開始された「同一労働同一賃金」とは、正社員や派遣社員などの異なる雇用形態であっても、同じ職務内容を遂行する際には、同額の賃金を支払う制度です。
この制度は人ではなく「仕事(ジョブ)」を基準とするため、人を基準として考える従来のメンバーシップ型雇用よりも、仕事を基準とするジョブ型雇用の方が好相性だと言えます。
ジョブ型雇用は決められた仕事に対し、適切な人を採用するため、如何なる人物を採用した場合にも同じ職務を遂行することから、同一の賃金での対応が可能だからです。
メンバーシップ型雇用では、人を採用したうえで仕事を割り当てるため、各自のスキルや職務範囲によって評価が異なることから、賃金に差がつく傾向にあります。
このことから同一労働同一賃金に対応するために、ジョブ型雇用の導入を考える企業が増えており、注目も高まっていると言えます。
③ダイバーシティによる多様な働き方が必要な時代である
日本は少子高齢化がすすんでいるため、労働人口の減少についても危惧されています。
このことから、以前では積極的に採用を行わなかった「子育て中の女性」や「定年退職をしたシニア人材」なども、視野に入れるべきだと言えます。
またグローバル化がすすむ中で、国内に外国籍の優秀な人材も存在することから、このような人も採用対象とすることで、企業のさらなる躍進の可能性も高まります。
こうしたダイバーシティによる多様な働き方の実現には、採用後に仕事を振るメンバーシップ型雇用ではなく、用意された職務内容に応じて働く「ジョブ型雇用」が最適だと言えます。
なぜなら時間や働き方に制約がある人を採用した場合にも、明確な指針があるため、職務内容に沿った働き方をすることにより、公正な判断も可能となるからです。
従来のメンバーシップ型雇用では、フルタイム勤務が主であり、残業にも対応が可能な人材をベースとしているため、多様な人材への適用が難しいというデメリットがあります。
一方でジョブ型雇用では、ジョブ・ディスクリプションという目に見える基準が存在するため、ダイバーシティが叫ばれる昨今において、多様な人材の確保につながります。
④リモートワークとの相性が良い
周知の通り、新型コロナウイルスの蔓延に伴い、人々は自粛を余儀なくされた結果、出社をせずに自宅等で勤務をする「リモートワーク」が広く普及しました。
引き続き新型コロナウイルスの感染に留意する背景と、リモートワークにメリットを感じた企業が存在することから、この先もリモートワークは一定数において続くと見られます。
こうした中で問題となるのが、常に社員を監視できるわけではないため、従来のメンバーシップ型のままだと、適切な評価が難しいということです。
リモートワークの場合でも自分を律し、出社時と同様に業務を遂行する人もいれば、一方で怠惰な行動を取る人もいるでしょう。
こうしたケースを踏まえた時に、出社時の評価を前提にしたメンバーシップ型雇用では、公正な評価が難しく、従業員から不満の声が上がる可能性が高いです。
ここでジョブ型雇用を導入すると、社員は「ジョブ・ディスクリプション」に記載した内容にそって業務を遂行するため、成果での判断が可能になることから、正当な評価が期待できます。
欧米のジョブ型雇用をそのまま導入すると生じる問題について
ジョブ型雇用において、欧米スタイルをそのまま導入したことで生じる問題について、以下に解説します。
段階を経てのキャリアアップが難しい
日本のメンバーシップ型雇用では、全社員が該当するとはかぎりませんが、入社時には容易な仕事が割り当てられ、時間の経過とともに難しい仕事を要求されるケースが多いです。
つまり、段階を経てのキャリアアップが可能であり、企業もそういったことを望んでいると言えます。
一方で欧米スタイルのジョブ型雇用では、管理職は最初から管理職として入社し、一般社員はそのまま一般社員として終わるという構図が、明確に出来上がっています。
前者には経営などを学んだエリートが就業し、後者においては一般的な学校を卒業した者が就業することから、欧米では「段階を経てのキャリアアップ」という考えが希薄です。
このことから欧米スタイルのジョブ型雇用を導入すると、従来のメンバーシップ型雇用のような「段階を経たキャリアアップ」が難しいため、昇給・昇進が当たり前と考える日本において、混乱が生じる可能性があります。
特に新卒採用への適応には注意が必要
欧米では教育機関がジョブ型雇用に理解を示しており、成果型に対応できる社会人を輩出するシステムが出来上がっていることから、新卒採用においてもジョブ型雇用への適応が容易です。
つまり欧米では、ジョブ型雇用での就業が一般的であるため、教育機関もそれに向けた教育カリキュラムを設けているのです。
例えば学生時代には、企業訪問や職業体験などを行う「インターンシップ制度」の活用が一般的であり、他にも「企業で働くこと」を意識できる講座が用意されています。
片や日本では、ジョブ型を意識する企業は存在するものの、欧米のような教育カリキュラムを実施する教育機関は少なく、職務経験のない新卒採用者への適応には注意が必要です。
このことから現状の日本において、欧米スタイルのジョブ型雇用を導入した際には、新卒採用者が困惑する可能性が高く、対象者への配慮が必要です。
日本の労働契約法を適応すると、解雇が難しい
日本の労働契約法(や労働基準法)は、従来のメンバーシップ型を想定して作成したため、欧米のジョブ型雇用とは相性の悪い部分があります。
その1つとして、解雇の問題が挙げられます。
欧米のジョブ型雇用では、職務への「能力が不足している」と判断された人に対し、解雇をすることが可能です。
片や日本では、欧米のジョブ型雇用を採択した場合であっても、既存の労働契約法の「解雇濫用法理」が適応されるため、解雇の実施は難しいと言えます。
なぜかと言うと「この解雇は客観的にみて合理的であり、社会通念上相当だ」とみなされない限り、容易に解雇はできないからです。
※詳しくは『新卒採用で「ジョブ型雇用」を成功させるポイントと注意点』の【解雇リスクが少なく、従業員の安心につながることから、定着率が高まる】の項目をご参照下さい。
このことから現状の日本において、欧米スタイルのジョブ型雇用を導入すると、能力の不足が発覚した社員への解雇が難しいため、仕事はないが在籍する社員が現れる可能性があります。
日本企業に合った「ジョブ型雇用」にするためのポイント
冒頭でも申し上げた通り、ジョブ型雇用の導入を成功させるためには、欧米スタイルをそのまま取り入れるのではなく、日本企業に合った「ジョブ型雇用」を展開することが大切です。
その際のポイントとして、以下をご参照下さい。
スキル重視で経験者が有利になるため、キャリアが浅い人に配慮する
ジョブ型雇用は、採用時に一定のスキルが求められるという性質から、経験者が有利になる傾向にあるため、新卒や第二新卒などのキャリアが浅い人への配慮が必要です。
配慮の不足により、早期の離職につながることが予想されるため、下記などの制度を設けることで、人材の流出防止が期待できると言えます。
新卒や第二新卒への教育体制を強化する
欧米であれば教育機関に属する段階で、ジョブ型雇用に必要とされる「職務に要する一定の能力や知識」が身に着くため、新卒者であってもスムーズな対応が期待できます。
片や日本においては、ジョブ型雇用に必要な能力・知識が学べる教育機関が乏しいことから、採用する企業自体が、キャリアが浅い人に対して教育をする必要があるでしょう。
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このことから、新卒や第二新卒への「ジョブ型雇用に向けた」教育体制を、強化することを推奨します。
一定の期間を経たあとに「ジョブ型雇用」に切り替える
新卒や第二新卒に対して、入社後の一定期間はメンバーシップ型を採択し、その後からジョブ型雇用に切り替えるのも1つの方法だと言えます。
一定期間中にジョブ型雇用への知識を深めた上で、自分の適性を見出し、その後においてジョブ型雇用としてのスタートを切るということです。
これによりジョブ型雇用への認識が深まるため、早期離職の回避にもつながるでしょう。
成長度合いによって「ジョブ・ディスクリプション」の再契約を促す
欧米スタイルのジョブ型雇用では『段階を経てのキャリアアップが難しい』の項目で解説した通り、入社した段階で歩む道が決まっており、その先における変化はほぼありません。
このことから日本で欧米スタイルを導入すると、上を目指してキャリアアップをしたい人にとって、困惑する材料となり得ます。
人によってはキャリアアップを目指すべく、別の会社への転職を試みる可能性もあるため、離職者の増加が予想されます。
これらを防ぐために、成長の度合いによって「ジョブ・ディスクリプション」の再契約を促すことも、1つの方法だと言えるでしょう。
ただし再契約を打診する際に「この提案は避けることができない」といった雰囲気を出すと、対象者から不信感を持たれる可能性があります。
そのため、企業から再契約を促す際には「成長が見られたため、あくまでキャリアアップをするための提案」という形にとどめ、本人に選択肢を与えると良いでしょう。
さらに提案を断ったとしても、元の職務内容での勤務が可能であり、不利益を被る心配がないことも、併せて説明することをおすすめします。
ジョブ型雇用に対応しうる「解雇のルール」を設ける
欧米スタイルのジョブ型雇用では、入社時に交わした「ジョブ・ディスクリプション」の内容を遂行するため、本人の能力が不足する際には、その時点での解雇が可能です。
片や日本では解雇に対するハードルが高いことから、欧米スタイルのジョブ型雇用をそのまま取り入れた場合にも、能力不足を理由に解雇することが難しいと言えます。
その結果として、仕事がないのに賃金だけが発生する状況も予想できるため、改めて会社の解雇ルールを見なおし、ジョブ型雇用にも対応しうる内容を設けることを推奨します。
とは言え「一定の能力を持たない場合には、解雇対象となる」といった文言のみを記載すると、不安感が募るため、大多数が納得できるような「明確な解雇基準」を設けると良いでしょう。
またジョブ型雇用に対応しうる「解雇ルール」の設置は、労働条件の不利益変更に該当する可能性もあることから、従業員や労働組合への同意の必要性についても、視野に入れましょう。
まとめ
ジョブ型雇用の導入を成功させるためには、欧米スタイルをそのまま取り入れるのではなく、日本に合わせた内容にすることが、大切だと分かりました。
以前にも増して、ジョブ型雇用が注目されつつありますが、長年のメンバーシップ型雇用に慣れている企業や人材も多く、こういった背景も加味する必要があるからです。
この機会に社内のルールを見直しつつ、ジョブ型雇用の導入に適合すべく、社内体制を強化できると良いでしょう。