「ジョブ型人事制度を導入したい! けど何からはじめていいかわからない……」
この記事ではジョブ型人事制度の設計や導入に関するお悩みをお持ちの方に、その設計方法を紹介します。
また、社員からの抵抗や衝突を避け、理解を得ながらスムーズに導入するためのポイントも解説。これを読めば、ジョブ型人事制度の設計や導入に関する基本が簡単に理解できますよ。
目次
ジョブ型人事制度の作り方は
ジョブ型人事制度とは、会社の中で担ってほしいジョブ(職務)を定め、ジョブを担える専門的人材を採用し、その職務に対して報酬を払うシステムのことです。ジョブ型人事制度をつくるには、次のような手順で実施します。
- ジョブディスクリプション(職務記述書)を作成する
- 職務評価を行う
- 等級区分を設定する
- 報酬制度を設計する
- 評価制度を設計する
- 人事制度の全体像を見直す
ジョブディスクリプション(職務記述書)を作成する
ジョブ型人事制度を導入する上で、まずはどのようなジョブ(職務)に対して人を募るのか、その要件を定める必要があります。その職務を定めた文書がジョブディスクリプション(職務記述書)です。
ジョブディスクリプションでは、以下のような内容を詳細に記載していきます。
- 役割・責任・期待される成果
- 具体的な業務内容
- 求められる能力(知識・技術・技能)
- 求められる実績・経験
- 求められる特性・行動
職務評価を行う
ジョブ型人事制度で特徴的なのは、この「職務評価」です。職務評価では、ジョブディスクリプションにより定められた職務がどの程度価値があるのか、その重みを査定します。この職務評価を元に、等級区分を設定していきます。
等級区分を設定する
ジョブディスクリプション(職務記述書)一つひとつに評価制度や報酬制度を設定するととても大変です。そのため、一般的には複数の職務を束ねる等級区分を設定していきます。
報酬制度を設計する
等級区分を設定したら、その等級ごとに報酬制度を設計します。ジョブ型人事制度では高度専門人材を獲得するため、魅力的な報酬制度設計が肝要です。
人事制度の全体像を見直す
ジョブ型人事制度設計の勘所はここまで説明したとおりですが、他の人事制度も全体的に見直す必要があります。
人事制度の全体像は次のように示せます。
待遇に関する制度
- 等級制度
- 評価制度
- 報酬制度
- 昇進・昇格
採用や働き方に関する制度
- 採用
- 配置転換・異動
- 勤務形態・時間・場所
その他の制度
- 教育・人材育成
- 労務・勤怠管理
- 福利厚生
たとえばジョブ型での就労を好む人材は、ジョブディスクリプションで定められた成果に直結する業務に集中するために、主業務に関係の薄いノンコア業務が少なく、自由度が高い職場を好む傾向が見られます。そのため「労務や勤怠管理などにかかる雑務が少ない」「フレックスやテレワーク制度など勤務形態に融通が利く」などのように制度を見直していくと、採用力が高まる可能性があります。
また教育・人材育成の制度としては、それぞれの社員が専門的な知識・スキルを有した状態で入社するため、基礎的な知識・スキルに関する研修は不要となります。その代わり、1on1ミーティングのような、社員の自発性を高め、トライアンドエラーから学習を促すような仕組みを用意するとよいでしょう。
その他専門書の購入費用や研修会への参加費用を会社が負担する制度など、専門性を高めたい社員が喜ぶような制度を考えてみることもおすすめです。
ジョブ型人事制度導入を成功させるポイントは
ジョブ型人事制度は「どのような制度を構築するか」だけではなく、「どのように導入するか」が重要です。ジョブ型人事制度の導入を成功させるには、大きく以下4点のようなポイントがあります。
- 日本とアメリカの違いを理解する
- 既存社員に配慮する
- 導入は段階的に行い、必要に応じて調整する
- メンバーシップ型人事制度にジョブ型人事制度の要素をいれる
日本とアメリカの違いを理解する
「ジョブ型人事制度」と聞くと多くの方がイメージするのは、アメリカの企業でしょう。様々なメディアでアメリカのジョブ型人事制度の合理性や有効性が紹介されているため、影響されてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかしアメリカ型のジョブ型人事制度をそのまま模倣しても、日本ではうまくいかない可能性が高いと考えられます。なぜなら、日本とアメリカでは社会環境が大きく異なるからです。
日本の大学生は、学科や専攻、研究内容を自分の興味に基づき選びます。卒業後のキャリアまで明確に見据えて大学を選んでいる人はそれほど多くはないでしょう。そのため、新卒入社時にその会社の業種や職種について、専門的な知識を有していることは期待できません。
しかしアメリカの大学生は、一般的に卒業後のキャリアも見越した状態で大学の専攻や研究内容を選びます。そのため、新卒入社時から就いた仕事に関する知識を持っていることが一般的です。これにより、新卒からジョブ型の人材として勤務を開始できるのです。
またアメリカでは、多くの大学生が長期のインターンシップを経験します。このインターンシップを通じて、即戦力として活躍するための経験やスキルを獲得するのです。一方日本でもインターンシップは普及してきましたが、どちらかというと職場体験的なニュアンスが強いのが現状でしょう。
労働者の保護に対する考え方についても、アメリカと日本には大きな違いがあります。アメリカでは会社の都合で従業員を簡単に解雇できます。各部署が採用や解雇に関する権利を持っており、「思ったほど優秀じゃなかった」「ビジネスの戦略が変わり、事業を縮小することにした」といった理由で人員整理ができるのです。その代わり、そもそもの報酬が高額に設定されていることが一般的です。
しかし日本では、労働者を会社都合でたやすく解雇することはできません。そのため、ジョブ型雇用で採用した人材が思うようなパフォーマンスを発揮できない場合であっても、解雇して別の人材を雇う、といったことがしづらいのです。
このように、アメリカと日本では社会システムが大きく異なります。そのため、アメリカの企業をそのまま真似てジョブ型人事制度を導入したのでは、大きな齟齬が発生してしまう可能性が高いのです。
既存社員に配慮する
高いパフォーマンスを発揮してくれる高度専門人材の獲得を目指し、ジョブ型人事制度の導入を目指す方も多いのではないでしょうか。このような場合、新たに採用する人に目がいってしまうものです。しかしジョブ型人事制度の導入において最も注目すべきは、既存社員なのです。
ジョブ型人事制度の導入において既存社員との待遇格差が発生すると、既存社員は必ずといっていいほど不満を覚えます。それにより、組織内に亀裂が入ってしまうリスクがあります。
また、ジョブ型人事制度はどうしても成果主義的なニュアンスが強いため、「自分の今のポジションが失われてしまうのでは」「会社をクビになるのでは」と不安を覚える社員もいます。このような不安が募ると、ジョブ型人事制度の導入について大きな反発が生じてしまうかもしれません。
このような衝突を避けるため、ジョブ型人事制度は既存社員への配慮が重要です。外部の人材獲得よりも、社内の従業員のさらなる活躍を目指し制度を設計するような心構えが求められます。
導入は段階的に行い、必要に応じて調整する
全社を対象に一括でジョブ型人事制度の導入を行うと、従業員からの大きな反発が発生する可能性が高いです。そうではなく、管理職や技術開発職など、一部の職種から導入し段階的に広げていくとよいでしょう。
少しずつ導入することで組織内にジョブ型人事制度をなじませられますし、細かいテストを重ね人事制度を改善しやすいです。
たとえば日本有数の電機メーカーである株式会社日立製作所は、全社員を対象にしたジョブ型人事制度の導入を目指しています。
2010年前後から技術系職種を対象にジョブ型雇用をはじめ、2020年度には事務系職種においても職種別採用を実施。「日立アカデミー」を通じた数千もの講座を受けられる人材育成制度など、段階的かつ包括的なジョブ型人事制度の導入を行っています。
【参考】ジョブ型人財マネジメント:採用・インターンシップ:日立
メンバーシップ型人事制度にジョブ型人事制度の要素をいれる
ジョブ型人事制度を職種ごとに段階的に導入する以外にも、少しずつジョブ型人事制度を浸透させる方法があります。それは、既存のメンバーシップ型人事制度に、ジョブ型人事制度の要素を加えた「ハイブリッド型」として運用する方法です。
たとえば電気通信事業大手のKDDI株式会社は、2020年8月より、「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入しています。この制度は、メンバーシップ型人事制度とジョブ型人事制度の「いいとこ取り」を目指した制度です。
ジョブ型人事制度の導入には、チームとしての団結力や結束力が損なわれてしまい、個人主義がはびこるのでは、という懸念がありました。そのためKDDI版ジョブ型人事制度では、専門的な能力以外にもチームワークやコミュニケーション能力など、組織貢献につながる「人間力」も評価する仕組みを構築しています。これにより社員間の結束や協力を促しているのです
なおジョブ型人事制度の要素としては、市場価値を重視した成果に基づく報酬制度、職務領域の明確化、新卒採用においても初期配属を確約する「WILLコース」の設置などを行っています。
【参考】時間や場所にとらわれず成果を出す働き方の実現へ、KDDI版ジョブ型人事制度を導入 | 2020年 | KDDI株式会社
全社員のキャリア自律を後押しする「KDDI版ジョブ型人事制度」とは – 『日本の人事部』
ジョブ型人事制度の設計は制度の包括的な見直しと既存社員への配慮が重要
この記事では、ジョブ型人事制度の設計方法やハレーションなく導入するための方法について解説しました。
ジョブ型人事制度を設計する上では、採用だけではなく包括的な人事制度の見直しが重要です。このような人事制度の見直しは、専門性の高いプロフェッショナル人材にとって魅力的な職場をつくることでもあります。
また既存社員を主眼においた制度設計も大切です。ジョブ型人事制度を段階的に導入したり、メンバーシップ型人事制度と組み合わせた制度にしたりなど、導入の仕方にも工夫をしてみてくださいね。