コンピテンシー評価とは、優れたパフォーマンスを出している人材の行動特性をもとに評価項目や評価基準を整理し、評価していく手法です。
業績につながるための行動を増やしたり、能力を伸ばしたりできるため、成果に直結しやすいというメリットがあります。
とはいえ、この評価手法にはデメリットや導入に関して配慮しなければ行けない点もあります。
そこでこの記事ではコンピテンシー評価のデメリットを解説するとともに、導入の失敗を避けるための対処法について紹介します。
一般的なコンピテンシー評価の導入方法とは
まずは一般的なコンピテンシー評価の導入手順を以下に記します。なお、コンピテンシー評価に関する概要は別の記事も参考にしてください。
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1.コンピテンシーモデルの設定方法を決める
「理想型モデル」「実在型モデル」「ハイブリッド型モデル」の3つから適切な設定方法を定めます。
理想型モデルとは、会社の経営方針から考える理想の人材像を定めるものです。また実在型モデルでは、実際に社内にいるハイパフォーマーを観察し、成果に結びついている行動特性を洗い出していきます。
ハイブリッド型モデルは、理想型モデルと実在型モデルを組み合わせてコンピテンシーモデルを設定する方法です。
2-1.(理想型モデルの場合)理想の人材像に関する議論
理想型モデルでは、経営陣や人事部内で理想とする人材像を定め、どのような行動特性を発揮すべきかを定義していきます。
2-2.(実在型モデルの場合)ハイパフォーマーの観察とヒアリング
実在型モデルやハイブリッド型モデルを選んだ方は、どのような考え方や行動が成果につながっているのかハイパフォーマーから聞き取ります。また行動特性を明確に理解するために、ハイパフォーマーの行動を観察することも有効です。
3.コンピテンシー項目の洗い出し
2のプロセスで集めた情報を考慮し、有効な評価項目を作成します。
4.コンピテンシーモデルの作成
上記のようなプロセスを職能別や階級別に行い、人物像と評価項目を組み合わせた「コンピテンシーモデル」を設定していきます。
5.何段階で評価するか、レベルと基準を定める
評価項目に対し、何段階で評価するのか、その評価基準を決めていきます。たとえばA-Dといったアルファベットで評価するのか、一般的な5段階で評価するのかなどです。
コンピテンシー評価のデメリット・問題点
コンピテンシー評価の代表的なデメリットや問題点は以下の通りです。
- ハイパフォーマーへのヒアリングが容易でない
- 何が高い成果に結びついている行動特性なのかわからない
- 行動特性の「バランス」を加味しづらい
- 環境の変化に適応しづらく陳腐化することも
- 導入のハードルが高い
- コンピテンシー評価の導入に失敗すると会社への不信感が募る
ハイパフォーマーへのヒアリングが容易でない
「実在型モデル」の方法で求められるのが、ハイパフォーマーへのヒアリングです。どのような行動や考え方が成果につながっているのか、時間を割いてもらい聞き取りを行う必要があります。
しかし、概してハイパフォーマーは他の社員よりも多忙です。また成果に結びつかないような行動を嫌がる傾向もあります。
そのためヒアリングの日程調整が難しかったり、拒否されたりするケースがあります。また拒否まで至らなくても、快く協力してもらえず思うような成果が出ない、という可能性もありえます。
何が高い成果に結びついている行動特性なのかわからない
コンピテンシー評価は、「成果をもたらしている違いが何なのかが明確にわかる」ということを前提としています。
しかし現実はそれほど簡単ではありません。同様の行動をしているように見えても、ある人は高いパフォーマンスにつながる一方、別の人は思うような成果が出ない、なんてことも一般的です。
行動特性の「バランス」を加味しづらい
さらに、コンピテンシー評価のデメリットには、行動特性のバランスを加味しづらいという問題もあります。
たとえば、締め切りに遅れがちですが高い品質のサービスを作れるAさんがいたとします。このAさんの中では、「締め切りに遅れがち」という行動特性と、「クオリティにこだわる」という行動特性を有しています。この人の中では、2つの行動特性が絶妙なバランスで混ざり合い、高いパフォーマンスを発揮しているのです。
しかし、「締め切りに遅れる」という行動特性は一般的にネガティブな要素になってしまいます。そのため、この「締め切りに遅れる」という点をコンピテンシー項目に加えることは難しいでしょう。
一方「締め切りを守る」という行動特性はビジネスマンとして基本であるため、コンピテンシー項目としても採用されやすいです。
結果として「締め切りを守る」「クオリティにこだわる」という項目が採用されてしまいます。もとのモデルとなったAさんが高いパフォーマンスを発揮するには「締め切りに遅れがち」という欠点に目をつぶる必要があるのですが、「締め切りを守る」ことが会社から求められるため、「クオリティにこだわる」という行動特性がうまく発揮できなくなってしまいます。
結果として、もともとハイパフォーマーだったAさんが、能力を発揮しきれず平凡な成果しか出せないようになってしまう……。そんな事態を招くリスクがあるのです。
環境の変化に適応しづらく陳腐化することも
コンピテンシー評価は、制度を構築するのに多大な時間と労力を費やします。
そのためコンピテンシーによる評価制度を整備している間に、会社のフェーズが変わり評価制度自体が陳腐化してしまうということも考えられます。
特に昨今は変化の激しい世の中です。数年でビジネス環境が変化するため、作成されたコンピテンシー基準がすぐに意味をなさなくなることも考えられます。
導入のハードルが高い
前述の通り、コンピテンシー評価の導入は時間と労力がかかり、難易度も高いです。コンピテンシーモデルの設定、ヒアリング、分析、評価レベルと基準の設定など、それぞれが簡単にできるものでもありません。
部署や、職種ごとに整備していく必要もあるため、会社が大きければ大きいほど手間と時間がかかります。
コンピテンシー評価の導入に失敗すると会社への不信感が募る
コンピテンシー評価の導入は多くの人を巻き込む必要があります。そのため導入に失敗してしまうと、関わった全てのステークホルダーに不満や不信感が募る場合も。結果として社員の成長を促すどころか、モチベーションや士気を下げてしまうかもしれません。
次のチャレンジに挑む際に協力を仰ぎにくくなり、協力が得られないからこそ失敗してしまう……といった悪循環に陥る可能性もあります。
コンピテンシー評価のデメリットを解消する方法
コンピテンシー評価の問題点を解消するには、以下5点の方法があります。
- 現場に負担をかけない「理想型モデル」をまずは考える
- 「実在型モデル」を行う場合は、プロの目を入れる
- 一部の部署からはじめる
- 陳腐化しないよう定期的に見直す
- システムに投資する
現場に負担をかけない「理想型モデル」をまずは考える
コンピテンシーモデルの設定方法としては、「理想型モデル」が現場への負担がなく導入しやすいです。特にモデルとなるハイパフォーマーがいない、あるいは協力的ではない場合に活用しやすい手法でしょう。
「実在型モデル」を行う場合は、プロの目を入れる
「実在型モデル」は「理想型モデル」と比べて現実的な手法ですが、高度な調査スキルが求められます。ハイパフォーマーの行動特性を明確に把握し、有効な部分と再現性に欠ける部分を取捨しなければならないからです。そのため「実在型モデル」を取り入れる際にはコンサルタントなどのプロの目を入れると良いかもしれません。
一部の部署からはじめる
コンピテンシー評価を成功させるためには、段階的な取り組みも重要になってきます。いきなり会社全体で取り組むのではなく、一部の部署からはじめるなど徐々に広げていく方が実際的でしょう。一部で成功させ、実証された手法を浸透させていけば、社員の亀裂や不満などを防ぐことができます。
陳腐化しないよう定期的に見直す
環境の変化に弱いというのもコンピテンシー評価の課題です。そのため時代の流れに遅れて陳腐化することのないように、評価項目を定期的に見直し、更新してください。
システムに投資する
現場の社員に負荷をかけず、スムーズに評価をするためには、評価システムの導入の検討も必要となります。人事評価の管理、人材育成計画の策定などの業務を簡素化することが可能です。
コンピテンシー評価は現場への配慮が重要
この記事では、コンピテンシー評価のデメリットやよくある失敗のケースについて解説しました。
コンピテンシー評価の導入成功には、現場の社員への配慮が必要です。亀裂や不満が生じ、人材のモチベーションや士気を下げてしまっては元も子もありません。
そのためいきなり現場を巻き込むのではなく、一部の部署から徐々に広げるなど、ソフトランディングさせるための工夫が必要となります。
また使い勝手の良いシステムに投資することもコンピテンシー評価を成功させるためのカギです。
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