介護職員等ベースアップ支援加算は、介護職員の基本給アップを目的とする加算制度として、2022年10月に導入されました。処遇改善と人材確保の促進で、重要な役割を果たしてきた同制度は、2024年6月度の制度改正で「新制度」へ移行しました。
そこで当記事では、介護職員等ベースアップ支援加算の概要や、新制度への移行について解説します。介護職員等ベースアップ加算支援の概要や、新制度について理解を深めたい場合には、ぜひ参考にしてください。
目次
介護職員等ベースアップ支援加算とは?
まずは、介護職員等ベース支援加算について、基本的な内容をチェックしていきましょう。
ここでは、介護職員等ベースアップ支援加算について、概要・目的・背景などを解説します。
加算の定義と目的
介護職員等ベースアップ支援加算は、介護職員の基本給引き上げを支援するための、加算制度です。主な目的は、介護職員の処遇改善と人材確保の促進にあります。介護職員等ベースアップ加算を通じて「介護職員の給与水準を向上させる」ことで、介護業界全体の魅力を高め、質の高い人材確保と定着しやすい環境を目指します。
また加算の導入により、介護職員の経済的な安定性が向上すれば、キャリアパスの充実にもつながるでしょう。同制度は介護サービスにおける質の向上にも寄与し、利用者へのサービス提供体制の強化にも貢献すると考えられます。
創設された背景
少子高齢化が進む昨今において、介護需要の増加に対応すべく、介護職の処遇改善が急務とされています。このような時代下で、「深刻化する介護人材不足の解消」と「介護職員の賃金水準向上」を目的とし、政府主導で2022年10月に導入されたのが【介護職員等ベースアップ支援加算】です。
同加算制度は、介護職員の基本給引き上げを直接的に支援することで、より魅力的な職場環境の創出と人材確保・定着を促進する狙いがあります。背景には、他業種と比較して低いとされる「介護職の賃金水準の改善」「慢性的な人手不足の解消」「介護の質向上」という社会的要請が存在します。
介護職員等ベースアップ支援加算の要件
ベースアップ等支援加算は、介護サービス種別ごとに、異なる単位数と算定要件を設定することが特徴です。事業所は、該当するサービス種別を確認し、以下のような必要な要件を満たすことで加算を取得できるでしょう。
算定要件
介護職員等ベースアップ支援加算の主な算定要件は、以下の通りです。
- 介護職員処遇改善加算を取得している
- 賃金改善計画を策定し、都道府県知事等に届け出る
- 加算額以上の賃金改善を実施する
- 賃金改善の対象者、金額等の記載された書類を作成し、保管する
- 実績報告書を都道府県知事等に提出する
上述の要件を満たすことで、事業所は加算を取得し、職員の基本給引き上げに活用できます。また、賃金改善計画の策定にあたっては、職員の意見を聴取し反映させることも求められます。さらに、加算の算定期間中は、賃金改善の実施状況について定期的に確認し、必要に応じて計画の見直しを行うことも重要です。
※要件の解釈や適用方法が変更される場合もあるため、不明点がある場合には、所管の自治体への確認を推奨します。
対象サービス
介護職員等ベースアップ支援加算の対象となるサービスの一例は、以下の通りです。
- 訪問介護
- 通所介護
- 短期入所生活介護
- 特定施設入居者生活介護
- 認知症対応型共同生活介護
- 介護老人福祉施設
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- 介護医療院
ただし、サービスの種別によって「加算率」や「具体的な要件」が異なる場合もあります。また、上述に記載のあるサービスは一例であるため、ほかにも対象に含まれるサービスが存在します。
そのため、「自身のサービス種別が対象となっているか」や「具体的な要件を満たしているか」について、事前にチェックする必要があるでしょう。
加算率
介護職員等ベースアップ支援加算の加算率は、サービス種別によって異なるものの、一般的には基本報酬の一定割合(基本報酬の0.5%~2.3%程度ほど)に設定されています。また加算率は、「各サービスの特性」や「職員の配置基準」などを考慮して決定されます。
具体的な加算率は厚生労働省の告示で規定されており、サービスごとに異なる値が設定されています。
また加算率は、社会情勢や政策の変更に応じて定期的に見直される可能性があるため、常に最新情報を確認することが重要です。正確な情報は、「厚生労働省の公式ウェブサイト」や「各都道府県の介護保険担当部署からの通知」でチェックできます。
介護職員処遇改善加算との関連
介護職員処遇改善加算は、ベースアップ等支援加算と並行して運用される制度です。両制度は密接に関連しており、処遇改善加算の算定要件を満たすことが、ベースアップ等支援加算における取得条件の一つとなっています。
処遇改善加算は、介護職員の賃金改善全般を目的とするのに対し、ベースアップ等支援加算は「基本給の引き上げ」に焦点を当てています。制度の併用によって、より効果的な処遇改善が可能になるでしょう。介護職員の賃金水準を総合的に向上させ、人材確保と定着率の改善につなげることも可能です。
介護職員等ベースアップ支援加算の実施_注意点
介護職員等ベースアップ支援加算を適切に実施するには、いくつかの重要な注意点があります。主な内容は、以下の通りです。
賃金改善を区別する
ベースアップ支援加算による賃金改善は、加算の適正な運用と透明性確保のために、「ほかの加算」や「一般の賃上げ」と明確に区別する必要があります。
具体的には、加算金額を基本給の引き上げにのみ充当し、賃金改善計画書に明記された対象者にだけ適用します。また、ほかの加算や一般昇給とは別枠で管理し、賃金台帳等で加算による改善分を明確に識別できることが重要です。
区別を徹底することで、加算の目的である「介護職員の処遇改善」が、確実に実行されたと証明できます。行政による監査や、利用者からの問い合わせがあっても、適切に対応できるでしょう。
適切な記録・報告の実施
加算の適正な運用と透明性確保には、詳細な記録と定期的な報告も欠かせません。
詳しく述べると、賃金改善の対象者と金額を個別に記録し、加算による賃金改善の実施状況を月ごとに管理します。また賃金改善に関する書類は、5年間保管する必要があります。加えて、年度終了後には、実績報告書の都道府県知事等への提出が義務付けられています。
ほかにも、加算の取得状況を利用者や家族に説明できるよう、準備しておくことも重要です。
記録・報告を適切に行えば、内部管理の観点からも、賃金改善の進捗状況を正確に把握でき、必要に応じてスムーズに調整を行えるでしょう。
2024年度の制度改正について
2024年6月より、介護職員の処遇改善に関する制度が大きく変わりました。ここでは、新たな制度の概要と、主な変更点について説明します。
ベースアップ等支援加算の廃止
2024年6月より、処遇改善に関する加算制度の簡素化と効率化を目的とし、旧来のベースアップ等支援加算が廃止されました。事業所は2024年5月までの加算を従来通り実施・報告し、6月以降の賃金改善計画を、新制度に基づいて再検討する必要があるでしょう。
また、制度改正に対する「職員への丁寧な説明」と「理解促進」も求められます。移行期間中は新旧制度の違いを十分に理解し、適切に対応することも重要です。
とくに、賃金体系の見直しや職員への周知には十分な時間をかけ、混乱を避ける必要があるでしょう。
新たな介護職員処遇改善加算制度の特徴と影響
2024年6月から、旧来の3つの加算(介護処遇改善加算/ベースアップ支援加算/介護職員等特定処遇改善加算)を統合した、新たな「介護職員処遇改善加算」制度が始まりました。主な特徴は、以下の通りです。
- 加算区分の簡素化
- 柔軟な賃金改善
- 事務負担の軽減
- キャリアパス要件の見直し
加算区分の簡素化により、事業所は適切な区分を選択しやすくなりました。また、基本給以外の手当にも活用可能となり、より柔軟な賃金改善も実現するでしょう。
申請手続きや報告書類の簡素化で事務負担が軽減され、キャリアパス要件の見直しにより、実効性のある職員育成体制の構築も可能になりました。
新制度への移行により、各事業所の実情に応じた処遇改善が促進され、より高い加算区分の取得が期待されるでしょう。
新制度への対応策について
ここでは、新しい介護職員処遇改善加算制度に移行したことに伴い、事業所が取るべき対応や重要性について解説します。
事業所が取るべき準備と対応
新制度に向けて、計画的な準備と対応が必要です。
まずは、厚生労働省や関連団体からの情報収集などを通じて、新制度の詳細を把握します。次に、現行の賃金体系を分析し、新制度に適合した賃金体系を設計するとよいでしょう。同時に「人事評価システムの見直し」や、新制度に沿った「評価基準の策定」も求められます。
また、新制度に対応した「賃金改善計画書の作成」や「キャリアパス要件の書類更新」など、必要書類の準備も欠かせません。ほかにも、「給与計算システムの更新」や「新制度に対応した管理方法の確立」も必要です。新しい人事評価システムへの理解促進と、公平な評価方法に関する研修を行うことで、制度の効果的な運用も期待できるでしょう。
職員への説明と周知の重要性
新制度への移行に際し、職員への丁寧な説明と周知も重要です。
まずは、全体説明会などを開催したうえで、新制度の概要と影響を説明します。各職員の賃金変更について解説し、懸念や質問に対応する個別面談を実施してもよいでしょう。新制度の概要やFAQをまとめ、職員に資料を配布することも効果的です。
また制度導入後も、定期的な意見聴取や相談会の開催を通じてフォローアップを行い、課題把握と改善に努めることが重要です。さらに、制度の変更や運用状況について、定期的に情報共有を行うなど、継続的な情報提供も欠かせません。
上述の取り組みにより、職員の不安解消と新制度への理解促進が期待でき、職場の信頼関係構築にも寄与します。
新制度下での効果的な処遇改善の実施に向けて
2024年6月からの新制度では、加算の統合により、より柔軟な賃金改善が可能になるでしょう。新制度を活用した適切な処遇改善は、人材確保と定着率向上につながる重要な取り組みだといえます。
具体的には、「公平な評価制度の構築」「キャリアパスの明確化」「継続的な教育・研修の実施」が重要です。また、職員の声を反映させた改善策の立案や、定期的な制度の見直しと改善も欠かせません。こうした取り組みにより、職員のモチベーション向上と組織の活性化が期待できます。
また新制度下での効果的な処遇改善は、単なる賃金アップにとどまらず、職員の成長を支援し、キャリア形成を促進する包括的なアプローチが求められます。事業所は、長期的な視点で人材育成と組織強化に取り組むことが重要です。
介護職員等ベースアップ支援加算でよくある質問と回答
新制度への移行という背景もあり、介護職員ベースアップ支援加算について、多くの質問が寄せられる傾向にあります。そこで当項目では、介護職員等ベースアップ支援加算に関する「よくある質問」と「回答」について紹介します。
Q1、ベースアップ等支援加算は、すべての介護事業所で取得できますか?
A1: すべての介護事業所において、自動的に取得できるわけではありません。まず、介護職員処遇改善加算を取得していることが大前提です。
さらに、各サービス種別に定められた要件を満たす必要があります。詳細は、厚生労働省の通知等で確認してください。
Q2、加算額による賃金改善は、従業員にどのように還元すべきですか?
A2: 加算額は、主に「基本給の引き上げ」に充当する必要があります。ただし、新制度では柔軟な運用が可能になるため、事業所の状況に応じて「手当」や「賞与」といった形での還元も検討できます。重要なのは、公平性と透明性を確保し、職員のモチベーション向上につながる方法を選択することです。
Q3、2024年の制度改正で、旧制度の加算はどのようになりますか?
A3: 2024年6月から、ベースアップ等支援加算は新たな「介護職員等処遇改善加算」に統合されています。旧制度の加算は廃止となるものの、旧制度の機能は新制度に引き継がれます。事業所は新制度の要件を確認したうえで、適切に移行する必要があるでしょう。
Q4、ベースアップ等支援加算と他の処遇改善加算は、同時に取得できますか?
A4: はい、ベースアップ等支援加算と他の処遇改善加算(介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算)は、同時に取得できます。ただし、2024年6月からの新制度では、これらの加算が統合されるため、取得方法が変更になります。新制度の詳細を確認し、適切に対応してください。
Q5、ベースアップ等支援加算の対象者はどのように決まりますか?
A5: ベースアップ等支援加算の対象となる職員の範囲は、原則として「介護職員処遇改善加算の対象」と同じです。具体的には、介護職員に加え、一部の看護職員や事務職員も含まれる可能性があります。ただし、経営者や役員は対象外です。詳細は各事業所の状況に応じて判断するため、不明点は所轄の自治体に確認するとよいでしょう。
まとめ:適切な評価制度で処遇改善を効果的に実施しよう
新制度下での効果的な処遇改善には、公平で透明性の高い評価制度が重要です。介護職員の能力と実績を適切に評価し、その結果を賃金改善に反映させることで、職員のモチベーション向上と人材定着が期待できます。また適切な処遇改善の実施には、評価基準の明確化と定期的な見直しが不可欠です。
このような取り組みを効果的に実施するには、「スマイル評価+制度構築」のような専門的な人事評価システムの導入も検討に値します。同システムは、介護業界に向けた制度であり、人事評価システムの構築から運用までワンストップで対応するサービスです。客観的な評価と公平な処遇改善が可能となり、職員の満足度向上と組織の成長につながるでしょう。
介護業界の持続的な発展のために、適切な処遇改善と人材育成を希望する場合には、「スマイル評価+制度構築」をぜひご検討ください。
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