部下が思うように仕事をしてくれない。どうすればよいのだろうか。その悩み、原因はリンゲルマン効果かもしれません。
「リンゲルマン効果」は社会的手抜きと呼ばれ、集団での作業時に力を抜いてしまう現象です。運動会の綱引きをはじめ、複数人で同じことに取り組んでいるときに見られます。
「手を抜いてはいけない」と頭でわかっていても解決が難しいリンゲルマン効果。定義や原因、対策できる1on1などを解説します。なぜかサボりがちな部下もポイントを押さえて対策すれば、モチベーションを取り戻してくれるかもしれません。
リンゲルマン効果とは
リンゲルマン効果の定義
リンゲルマン効果は「社会的手抜き」とあわせて次のように定義されています。
社会的手抜き(しゃかいてきてぬき)は、集団で共同作業を行う時に一人当たりの課題遂行量が人数の増加に伴って低下する現象。リンゲルマン効果、フリーライダー(ただ乗り)現象、社会的怠惰とも呼ばれる。
Wikipediaより
リンゲルマン効果は、複数人でなにかしらの作業を行うとき1人で作業するときよりも効率が落ちることをさします。複数人で作業すればその分だけ早く作業が進むという単純な計算ができないのはリンゲルマン効果によります。
リンゲルマンが行った実験
リンゲルマン効果という言葉は、フランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマンに由来します。彼は業務の進捗度を計測し数字におこしました。すると作業のスピードについて次のような発見をしました。
彼(リンゲルマン)が実験したのは、綱引きや荷車を引くこと、回転するひき臼のバーを押すことなどであった。実験の結果、1人の力を100%とした場合、集団作業時の1人当たりの力の量は、2人の場合は93%、3人85%、4人77%、5人70%、6人63%、7人56%、8人49%となった。
『人はなぜ集団になると怠けるのかーー「社会的手抜き」の心理学』釘原直樹 著より
リンゲルマンの実験より、自分以外に作業する者がいて緊張度の低下している場合は、1人当たりの作業効率が低下するとわかりました。また集団の人数が増えれば増えるほど1人当りの効率は低下しました。そのため、作業に大人数を投下したとしても作業が効率的になされるとは限らないと考えられます。
傍観者効果との違い
リンゲルマン効果とよく比較される言葉に「傍観者効果」があります。傍観者効果はリンゲルマン効果とやや似ていますが意味は異なります。傍観者効果は次のように定義されています。
傍観者効果(ぼうかんしゃこうか,英:bystander effect)とは、社会心理学の用語であり、集団心理の一つ。ある事件に対して、自分以外に傍観者がいる時に率先して行動を起こさない心理である。傍観者が多いほど、その効果は高い。
Wikipediaより
リンゲルマン効果は設定された作業に取り組んでいるものの、顕在的・潜在的を問わず手を抜いてしまうことを指します。全員で協力して作業を完了させる必要があるものの、自分の行動が結果にあまり影響しない場合に手を抜くのがリンゲルマン効果です。
一方、傍観者効果は誰かがすべき作業(多くの場合は緊急度が高い)において、率先して遂行しないことを意味します。多くの傍観者と責任を分散したり、失敗時の反感を避けたりすることが要因です。集団でいるときに手を抜いてしまうリンゲルマン効果と、事件への関与を避けてしまう傍観者効果は別物です。違いをよく理解しましょう。
実例
国際ニュース週刊誌Newsweekによれば、アメリカにおける全国の従業員のうち90%が業務中にネットサーフィンをしていると認めています。また、従業員の84%は職場にいながら私的なメールを送信していると自白しています。
上記のような職務怠慢は一見、各人の責任のように思えます。しかし9割もの従業員が仕事に本腰を入れていないとなると、リンゲルマン効果の影響を考えるのが妥当でしょう。もしフリーランスのように自分の業務が成果に直結するのであれば、作業中にネットサーフィンはしないでしょう。ネットサーフィンをしている間は成果をあげられないからです。
反対に従業員であればどうでしょうか。個人の成果より集団の成果を計測する企業であれば、作業から少し手を抜いてもあまり損失がありません。1人ががんばらなくても他の従業員が補ってくれるためです。多くの従業員による怠慢がリンゲルマン効果であり、結果的に90%のネットサーフィンを引き起こしていると考えられます。
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詳細はこちらリンゲルマン効果を避ける方法
リンゲルマン効果は、集団で作業する際は避けて通れない現象です。しかしやり方次第ではリンゲルマン効果の影響を最小限に抑えられます。釘原によるとリンゲルマン効果の抑制に効果があると考えられるのは次の9つです。
- 罰を与える
- 社会的手抜きをしない人物を選考する
- リーダーシップにより集団や仕事に対する魅力の向上を図る
- パフォーマンスのフィードバックを行う
- 集団の目標を明示する
- 個人のパフォーマンスの評価可能性を高める
- 腐ったリンゴを排除し、他者の存在を意識させる
- 社会的手抜きという現象の知識を与える
- 手抜きする人物の役割に気づく
1. 罰を与える
集団全員に共通する目標を立て、達成できなかった場合は何かしらの罰則を与える方法です。人間は得るものより失うものに敏感であるという性質を利用した手法で心理学的には理にかなっています。ただし目標を設定するたびに罰則を規定していると過度なプレッシャーがかかるほか、短期的な成果のみを追い求める人も出てくるでしょう。
2. 社会的手抜きをしない人物を選考する
リンゲルマン効果を受けにくい人を雇用すればよいという発想です。採用時の面接で注意していれば一定程度は効果を得られるでしょう。とはいえパレートの法則や働きアリの法則に見られるように、現時点で怠慢しないと考えられる人でも雇用した後に態度が変容する可能性は十分にあります。
3. リーダーシップにより集団や仕事に対する魅力の向上を図る
従業員を鼓舞する方法です。企業のビジョンやミッションを再認識させたり仕事の意義を確かめさせたりして、モチベーションを向上させるのが目的です。従業員は社風や仕事内容に興味をもって働いているケースが多いため、比較的効果を得やすい手法だと考えられます。ただしリーダーシップを持っていないと厳しい手法とも言えます。
4. パフォーマンスのフィードバックを行う
個人の作業に対してフィードバックし各人が集団へどのように貢献できているかを認識させるやり方です。集団での作業は、一人ひとりに目を向けられにくくやりがいを実感できない点が問題です。それぞれにフィードバックできれば従業員は「自分の仕事には意義がある」「頑張りを認めてくれる人がいる」などと実感でき、仕事を前向きに捉え始めるでしょう。
5. 集団の目標を明示する
集団で達成させるべき目標をあらためて確認させる対策です。目標が明確になれば作業量を逆算できるため、業務への取り組み方も改善できると思われます。しかし個人ではなく集団の目標を明確にするため、自分が努力せずとも他の人さえがんばれば目標を達成できる点は変わりないため効果を得にくいでしょう。
6. 個人のパフォーマンスの評価可能性を高める
個人の成果を計測し評価できる体制を整える方法です。監視カメラやコンピュータの普及により人がいなくても一人ひとりの進捗を確認できるので、少ないコストで対策を講じられます。集団の業務を個人の業務かのように疑似体験させてリンゲルマン効果の影響を抑えます。
7. 腐ったリンゴを排除し、他者の存在を意識させる
腐ったリンゴは他のリンゴを腐らせてしまうのと同様に、手抜きをしている存在をなくし再発を防止する手法です。ゴミの散らかっている街では犯罪率が高くなるという実験結果があるように、環境がリンゲルマン効果を誘発させるケースは十分に考えられます。しかしリストラは離職率の上昇につながるので慎重な行動を求められます。
8. 社会的手抜きという現象の知識を与える
社会的手抜き(リンゲルマン効果)の存在を従業員に教える方法です。無意識的にでも手を抜く可能性があることをあらかじめ伝えることで、従業員各自にリンゲルマン効果の防止を促します。まじめな従業員であれば自身で対策を取ってくれますが、リンゲルマン効果を言い訳に怠慢する従業員が発生するかもしれません。
9. 手抜きする人物の役割に気づく
リンゲルマン効果をポジティブに捉えるという新しい考え方です。パレートの法則にもあるように一定数の従業員はどうしても怠慢する傾向にあります。仕事に積極的でない彼らはむしろ貴重な人材だととらえ、短期的な業務には関係ないが重要なタスクに就かせるのも良いでしょう。
対策しやすい方法
対策9つの特徴をまとめました。どれも一長一短ではあるものの「4. パフォーマンスのフィードバックを行う」と「6. 個人のパフォーマンスの評価可能性を高める」が比較的現実味を帯びた対策であると思われます。
効果を得にくい「2. 社会的手抜きをしない人物を選考する」や「5. 集団の目標を明示する」、再現性の低い「1. 罰を与える」「7. 腐ったリンゴを排除し、他者の存在を意識させる」などは実際の職場において活用が難しいでしょう。
対策 | 特徴 |
---|---|
1. 罰を与える | 継続しにくい |
2. 社会的手抜きをしない人物を選考する | 再現性が低い |
3. リーダーシップにより集団や仕事に対する魅力の向上を図る | カリスマ性がほしい |
4. パフォーマンスのフィードバックを行う | 時間を設ければできる |
5. 集団の目標を明示する | 効果を得づらい |
6. 個人のパフォーマンスの評価可能性を高める | 低コストで実現できる |
7. 腐ったリンゴを排除し、他者の存在を意識させる | 離職率が高くなる |
8. 社会的手抜きという現象の知識を与える | 効果が薄い |
9. 手抜きする人物の役割に気づく | 根本は解決されない |
リンゲルマン効果を1on1で抑制
対策しやすい「4. パフォーマンスのフィードバックを行う」と「6. 個人のパフォーマンスの評価可能性を高める」を両立できる方法に1on1という手法があります。
1on1とは、1on1ミーティングの略称で広義的には1対1の会議をさします。上司と部下の1on1は近年ヤフーで取り入れられるほど注目を集めています。部下の目標設定や進捗の確認、フィードバック、雑談など、企業や部署によっても内容は異なりますがおおむね部下を育てるために実施されます。1on1の詳しい内容や進め方は下の記事で解説しているので、興味のある方はこちらも合わせて確認してください。
なぜリンゲルマン効果の抑制に1on1が効果的なのでしょうか。理由は「4. パフォーマンスのフィードバックを行う」と「6. 個人のパフォーマンスの評価可能性を高める」の双方を満たし、リンゲルマン効果の根本を解消できるからです。
リンゲルマン効果の原因
リンゲルマン効果は、集団での目標共有および貢献度への不透明性が原因です。そのため、個人単位で目標を設定したり各人の成果を明らかにしたりすることでリンゲルマン効果を抑えられます。つまり集団で作業をするものの、あたかも個人で作業しているかのように目標や達成度をフィードバックすれば問題は解決します。
1on1は個人単位での目標設定や成果共有を促します。一人ひとりに目標を設定し成果を明示すれば「4. パフォーマンスのフィードバックを行う」や「6. 個人のパフォーマンスの評価可能性を高める」の条件を満たします。よって1on1はリンゲルマン効果に適切な手法だと言えます。
リンゲルマン効果を抑える1on1のポイント
リンゲルマン効果は1on1を利用すれば問題を最小限に抑えられます。しかしやみくもに1on1を実施してもあまり意味がありません。「4. パフォーマンスのフィードバックを行う」と「6. 個人のパフォーマンスの評価可能性を高める」の両方を満たせるように1on1を進めましょう。
振り返りやすい目標を設定
個人の目標は振り返りやすいように設定しましょう。具体的には、定量的な目標と定性的な目標を組み合わせるのがおすすめです。
「6. 個人のパフォーマンスの評価可能性を高める」と関連しますが、目標はあとから反省しやすいように設定する必要があります。せっかく個人単位で目標を設定しても、実現があまりに厳しい目標や容易すぎる目標、達成したか判別できない目標はモチベーションの低下につながり逆効果です。
進捗度合いを確認できる定量的な目標と、数値では表されないが重要な指標を測れる定性的な目標の両者を設定すると良いでしょう。良い目標は1on1で振り返りやすく達成度が目に見えるため次以降の業務を意欲的に取り組んでくれます。従業員を集団で埋もれされないために個々人の目標を具体的に立てましょう。
個人に寄り添ったフィードバック
目標と同じぐらい重要なのが強み・弱みや性格に対応させたフィードバックです。目標に対して画一的なフィードバックを行うのではなく、部下の考え方やバックグラウンドに配慮しながらフィードバックするのが大切です。
1on1は「4. パフォーマンスのフィードバックを行う」を満たせる良い施策ですが、フィードバックのやり方次第で効果はプラスにもマイナスにも変化します。部下それぞれに目標を設定したように、フィードバックも部下の状況に合わせて適切に変化させましょう。目標を達成しているのか未達なのかだけにとらわれてはいけません。
「慎重な性格であったのに積極的にヒアリングできるようになった」「数値的には目標を達成しているがお客さんの話を聞くと押し売りしているようだ」のように、成果の背景にある事情まで考慮してフィードバックすれば部下も手を抜かずに業務に取り組んでくれるでしょう。集団のうちの一人ではなく個人として接するのがフィードバックのポイントです。
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詳細はこちらリンゲルマン効果は1on1で予防しよう
リンゲルマン効果の概要や対策を解説しました。リンゲルマン効果は集団で作業に取りかかるときには避けて通れない現象です。人海戦術で解決しようとしても効率ばかりが低下して、逆効果となる場面も多々あるでしょう。
リンゲルマン効果は1on1を活用して予防しましょう。個人単位での目標設定やフィードバックができれば、集団で取り組んでいる業務も効率を落とさずに対応できます。部下の進捗が思わしくないなら試してみてはいかがでしょうか。
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